木曽桧で作る簡単設置のモダン神棚
祈り雲が大切にする三つのこと~その壱~
見えないところにこだわる
伝統彫刻の職人の世界では「砥ぎ十年」という言葉があります。一人前に鑿を砥げるようになるまでの一つの目安のような意味です。私が彫刻師を目指して間もない頃、「十年」と初めて聞いたときは、「大げさな表現だな」と思いました。職人仕事の価値を高めるために、そう言っているだけだと思ったのです。実際は、十年をとうに越えた現在でも、鑿を砥いでいると「そうか、なるほど…」と気付くことが度々あり、未だその奥深さを感じる日々です。
結果は同じでも
奥が深いとはいえ、現代では機械で鑿を砥ぐのが主流です。職人の世界でも、ほとんどの工房が砥ぎ機を置いています。完成した彫刻を見たとき、よく切れる鑿で仕上げたか職人には分かります。しかし、それが機械で砥いだ鑿なのか、それとも手で砥いだ鑿なのかは職人でもわかりません。つまり、砥ぎ機を使っても仕上がりに差はないという事です。そして、砥ぎ機を使った方が早く砥ぐことができる。もし、この記事を読んでいるあなたが職人だったら砥ぎ機を使いますか?それとも手で砥ぎますか?
効率では生み出せないもの
多くの人は砥ぎ機を使うと答えるのではないでしょうか?私はというと、全ての刃物を手で砥いでいます。本来、完成品に差がないのであれば、効率的なほうを取るのは当然で、そうした考えによって、今の社会は発展してきました。しかし、同時に多くの人が、効率だけでは生み出せない価値に気づき始めています。近年、ハンドメイドの世界が大きな賑わいを見せているのは、その表れなのかもしれません。"よりよいものを"という想いと共に、手間暇かけて生み出されたものに"温かみ"のようなものを私たちは感じます。そして、なぜかそれらは効率的には生み出せないようになっています。
小さな事で変わる
そんな"ひと手間かける事の重要性"がわかってくると、一見、雑用のように見える鑿砥ぎも軽視できなくなってきます。それに、機械を使うと早いといっても、一本当たり数分です。ですから、その数分を惜しむのをやめるという事を決めました。すると、当然と言えば当然なのですが、自分の手で一本一本砥いだ刃物はとても丁寧に扱うようになり、丁寧な切り方をするようになりました。大した事でないように思えますが、作り手としては大きな発見でした。
そしてこれから
時代とともに、あらゆる工程に機械が導入されてきましたし、私も彫刻と鑿の手入れ以外では、バンドソーやドリルなど多くの電動工具を使います。加速度的に進む新しい技術革新によって、今後、伝統的な木彫のあり方は変化していくでしょうし、人々の趣向や価値観も変化していくことでしょう。そんな大きな流れと、いにしえより受け継がれてきたものとの間に、調和を紡いでいくのも木彫文化を担う一人の職人のあり方と考えています。
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